武禅修行へGO!

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8.生活のヒント Presented by

〜チベット体操〜

電脳山 山門前道場の朝稽古へ


 僕は朝稽古に参加するため、白の道着に白帯で、遅刻しないよう午前6時より15分早く養心寺に来た。道場の前では、道場長が黙々と作務をしていた。道場長は白の道着に少し年期の入った黒帯だった。

「道場長、おはようございます!」

道場長は、こちらに見向きもせず、黙々と作務を続けている。聞こえているはずなのに…。

「おっ、おはようございます!!」

『・・・』

 ガン無視だ…。もしかして、朝稽古の前に、僕も一緒に作務をすると決まっていたのかもしれない。だから道場長は怒って無視を決め込んでいるんだ。老師からは『稽古前に作務をする』とは一切聞いていない。これは完全に老師のミスだ。僕は遅刻していないし悪くないのに…。朝から少し気分が悪くなった。

 しかし、このまま突っ立っていても仕方ない。僕は慌てて周りを見渡した。道場の外壁に一本の竹ぼうきが寄りかかっていた。そうだ、あれで道場長の作務をお手伝いしよう!と、竹ぼうきの方へ走った瞬間だった。道場の正面玄関の引き扉がスーッと開き、白の道着袴の老師が現れた。

『ふむ、作務はもうよかろう。稽古の準備じゃ』

道場長は、老師の声が聞こえると、特に返事をするでもなく、そのまま黙々と後片付けを済ませ、手水舎で水で手を洗い、口をすすぎ、道場の中へ入って行った。僕は道場長に声をかける勇気が出なかったので、その後を追った。


朝稽古


 養心寺 山門前道場には、毘沙門天が祀られている。毘沙門天像に正対して老師、その後列に道場長と僕が横に並んだ。

 老師と道場長は、静かに合掌し、一礼した。僕もその動作につられて合掌と一礼をした。

 『まずは素振りじゃ!』

 老師と道場長は、壁掛けの木刀を取りに行く。

 〈しまった!僕は木刀を持ってきていない。どうしよう…〉

 と、学校で忘れ物をしたような罪悪感と、恥ずかしくてこの場から立ち去りたいような気持ち、更には「木刀を使うなんて聞いていないから、僕は悪くない!何も説明しなかった老師が悪いんだ!」といった憤りを感じながら、立ち尽くしていた。

 すると…

『カズキ、好きなものを選らぶんじゃ!』

と、老師からの一声があった。

 〈よかった〜。さて、老師と道場長は、どんな木刀を選んだのかな?〉

 と、それぞれの手元を見た。

 老師は老人らしく、細身で軽そうな白い木刀だ。

 道場長のは見栄えの良い、大きくて見る限り重そうな、茶色の素振り用木刀だ。

 〈さて、僕はどれにしようかな…。僕はこの三人の中でも一番若く、ウエイトトレーンイングもしっかりしていて、パワーにもスタミナにも自信がある。かと言って道場長のは大きすぎてる…。そうだ!道場長の木刀より少し軽そうなモノが丁度いい!〉

 と、一回り小さな素振り用木刀を手にした。

『カズキ、ワシに続き、しっかりと声をだして数を数えるんじゃ!』

「はい!」

『1!』「1!」『2!』「2!」『3!』「3!」………『10!』「10!」

 山門前道場の朝稽古は、素振りから始まる。

 素振りの終わりは老師の気分次第。

 ちなみに老師の木刀は桐製で、200グラムもない。
 道場長の素振り用木刀は約1.2キログラム。
 カズキのは、約900グラムである。

 結構な時間が過ぎた。何度十まで数えたのかわからない。カズキの腕は限界に達した。

 「うわ〜、もうダメだ〜!老師、腕が上がりません〜!」

 『うむ、カズキは見取り稽古!端で正座じゃ!』

 「はい!ありがとうございます!」

 〈よかった〜。これで休める〉

 と、喜んだのもつかの間。足が痺れて来た…。

 老師と道場長の素振りは一向に終わる気配がない。足を崩せる雰囲気はない。

 途方もないぐらい時間は過ぎた。僕は足をかばうために、正座の体勢を保ちながら、色々なところに体重を掛けて、何とか足の痺れを逃したり、散らしたりして頑張った。

 〈もうだめだ…〉

 僕の心の底からの声が、口から出そうになった時だった。

 道場長は素振りをやめ、おもむろに壁に向かった。

 木刀を壁に掛け戻し、老師と同じ軽そうな木刀に代え、再び素振りを始めた。

 〈えっ!?木刀を代えてもいいの?早く言ってよ〜!〉

 と、憤りを感じた瞬間だった。

 『うむ、稽古はおしまいじゃ!』

 と、老師が稽古をしめた。

 『シメはチベット体操じゃ。おのおのやるように』

 「チベット体操?」

 『うむ、カズキはチベット体操をしらんのか?』

 「はい、初耳です」

 『では見よう見まねじゃ、KAZのを見てせい』

 「はい!」

 少しぐらい教えてくれるのかな?と期待したが、道場長からは一切説明も解説も無く、ただ淡々とチベット体操をして、呼吸を整えるだげだった。

 〈道場長も疲れていて余裕がないんだろう…。僕は道場長に嫌われている訳じゃない〉

 と、自分を励ました。

矢印マーク  参照:肴はとくにこだわらず
【坐禅作法25】チベット体操10週間
【健康術 一】チベット体操~3年の真実~


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 チベット体操を終えた。始めと同様、毘沙門天像に合掌と一礼をし、稽古は無事に終わった。

 稽古の後は、お茶とおはぎを頂いた。普段無愛想な道場長も、笑顔で老師と談笑している。

 〈やっぱ、武道修行者に悪い人はいない〉

 と、少しホッとした時、

 『カズキくん、よくここまで頑張ったね』

 と、道場長からお褒めの言葉を頂いた。

 「えっ!?あっ、あっ、あ…、ありがとうございます!」

 『でも、ここからだよ。キツいのは』

 「えっ!?もう一度稽古するんですか!?心折れますよ〜」

 『大丈夫。今日の稽古はおしまいだよ』

 「やった〜!!よかった〜ぁ」

 と、心から喜んだ瞬間だった。

 『バカも~ん!喝じゃ!!残心がなっとらん!!!』

 老師の喝が、道場に響いた。

 ビクーン!!

 僕のアタマの中は、一瞬真っ白になった。

 〈残心だ。とにかくこれからは残心を心がけよう〉

 と改心した瞬間だった。

 『うむ、その心掛けじゃ!精進あるのみ』

 と、老師は席を立ち、道場の奥へ下がられた。

 『カズキくん、武道修行は生活のヒントだよ。ここに来て習ったことを忘れずにね』

 「あっ…、はい!」

 『じゃあね。食器は置いといて』

 「あっ、ありがとうございました!」

 道場長も席を立ち、僕は一人になった。おはぎを食べ、お茶をすすった。

 今まで習ったことを思い出しながら…。



 そういやチベット体操って何だったんだ?

 帰りは書店に寄って、チベット体操の本をチェックしよう。

(カズキの修行、第一部 ―完―)
(2019.4.8)

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